牛肉支出額トップ8が、すべて近畿圏の都市だった。新潟市は京都の3分の1で最下位。

牛肉支出額トップ8が、すべて近畿圏の都市だった。新潟市は京都の3分の1で最下位。
「西は牛肉、東は豚肉」。日本の食文化では、そんな言い方がよくされる。
家計調査の数字を並べると、その傾向は今もかなりはっきり残っている。
県庁所在市と政令指定都市の牛肉支出額を直近3年(2023〜2025年)の平均で見ると、1位は京都市(36,081円)。2位が和歌山市(34,171円)、3位が堺市(34,139円)、4位が奈良市(32,581円)、5位が神戸市(32,212円)と続く。
さらに6位は大津市、7位は大阪市、8位は津市。トップ8はすべて近畿圏の都市で占められていた。
最下位は新潟市(10,176円)、次点は盛岡市(10,223円)。全国平均は21,217円。京都市の支出額は、最下位の新潟市(10,176円)の3.5倍にあたる。
肉の種類ひとつで、ここまで地域差が出る。牛肉は、いまも日本の食文化の境界線をよく映している。
トップ8が近畿で揃う、圧倒的な集中

上位8都市を並べると、地図の上でひとつの塊が浮かび上がる。
| 順位 | 都市 | 3年平均支出額 |
|---|---|---|
| 1位 | 京都市 | 36,081円 |
| 2位 | 和歌山市 | 34,171円 |
| 3位 | 堺市 | 34,139円 |
| 4位 | 奈良市 | 32,581円 |
| 5位 | 神戸市 | 32,212円 |
| 6位 | 大津市 | 30,336円 |
| 7位 | 大阪市 | 29,588円 |
| 8位 | 津市 | 29,498円 |
大津市は近江牛の産地圏に近く、津市は松阪牛で知られる三重県の県都だ。神戸牛、但馬牛、近江牛、松阪牛といった有力な和牛ブランドが、この近畿ブロックとその周辺に集まっている。
もちろん、ブランド牛だけで日々の支出額が決まるわけではない。ただ、牛肉を身近な食材として選びやすい流通環境があることは確かだ。上位8都市がこの地域に固まるのは、偶然とは考えにくい。
新潟という、鮮やかな対称性
近畿が牛肉で上位を独占するなら、豚肉では何が起きているのか。
答えは鮮やかだ。豚肉支出額の全国1位は新潟市で、38,131円。ところが牛肉では新潟市が最下位の10,176円になる。
ひとつの都市が、豚肉では全国トップ、牛肉では最下位。この対称性はとても印象的だ。
近畿圏では牛肉への支出が厚く、新潟市では豚肉への支出が厚い。家計の中でどの肉を日常的に選ぶかは、単なる価格や気分だけではなく、長く積み重なった食習慣に左右されているように見える。
一人ひとりが意識して「牛肉派」「豚肉派」を選んでいるわけではない。子どもの頃から当たり前に食べてきたものが、そのまま大人になっても日常の選択肢として残る。その積み重ねが、統計に表れている。
西と東の境界線は、今も残っている

「東は豚、西は牛」という構図は、昔の話として語られがちだが、家計調査の数字を見るかぎり、いまもかなり強く残っている。
近畿では、すき焼きやしゃぶしゃぶをはじめ、牛肉を中心にした料理が家庭の選択肢として根強い。一方で東日本では、日常の肉として豚肉の存在感が大きい地域が多い。
もちろん、日本全国どこでも牛肉は食べられるし、豚肉も牛肉も全国流通している。それでも支出額にここまで差が出るのは、流通条件だけでは説明しきれない。料理の定番、家庭での使い方、祝いの日に何を食べるかといった文化の違いが、今も数字の底に残っているのだろう。
なぜ近畿が圧倒的なのか
数字からは3つの仮説が読み取れる。
理由1 — 牛肉を選びやすい流通圏にある。
近畿圏とその周辺には、有力な和牛産地が集中している。高級ブランド牛だけでなく、日常使いの牛肉も含めて、牛肉が売り場で目につきやすく、選ばれやすい環境がある可能性がある。
理由2 — 家庭料理の型として牛肉が強い。
すき焼き、しゃぶしゃぶ、肉じゃがなど、家庭で牛肉を使う料理が定番として残っている地域では、日常の買い物でも牛肉が選ばれやすい。これは単なる好みというより、料理習慣の問題でもある。
理由3 — 外食や中食の経験も家庭の選好に影響している。
焼肉、すき焼き、牛丼など、外で牛肉に触れる機会が多い地域では、家庭でも牛肉を買うことへの心理的な距離が近い。家計調査が測るのは家庭での支出額だが、その背景には外食や中食での経験もありそうだ。
逆転の兆し — 近畿が落ち、沖縄や北海道が伸びている

長く続いてきた構図にも、ゆっくりした変化は出ている。
19年間の変化率(2007〜09年比)を見ると、増加率の上位は那覇市(+45%)、札幌市(+39%)、長野市(+32%)だ。従来は牛肉支出額がそれほど高くなかった地域でも、支出が伸びてきている。
一方で減少幅が大きかったのは、徳島市(-19%)、津市(-18%)、大津市(-17%)、和歌山市(-16%)、神戸市(-15%)。下落幅の大きい都市に近畿圏が目立つ。
これは、近畿の牛肉文化が消えたという意味ではない。もともと高かった地域が少し下がり、低かった地域が追い上げている、という見方のほうが自然だろう。
那覇市の+45%は特に目を引く。沖縄にはもともとステーキ文化があるが、家庭での牛肉購入も広がってきたと見ることができる。全国的に牛肉がより一般化してきた中で、後発地域の伸びが目立っている。
それでも、トップ8がなお近畿圏で固まっている事実は重い。差は縮まりつつあっても、食文化の地図そのものが簡単に塗り替わるわけではない。
牛肉が語る、日本の食文化の厚み
牛肉支出額のランキングは、単なる嗜好の違い以上のものを示している。
京都市が1位、和歌山市が2位、奈良市が4位。これらの都市が特別に「牛肉の街」を名乗っているわけではない。ただ、家庭の食卓の中で牛肉を選ぶ習慣が積み重なってきた結果として、いまの数字がある。
新潟市が牛肉では最下位で、豚肉では1位という対称性も象徴的だ。食文化の境界線は、いまも統計の上にはっきり残っている。
牛肉は「どこで育てられているか」だけではなく、「どこで食卓に並ぶか」で見ると、また違う姿が見えてくる。
全52観測都市ランキング
家計調査では、都道府県庁所在市と政令指定都市の合計52観測都市を比較できる。3年平均ランキングには相模原市を含む全52都市を並べた。
| 順位 | 名称 | 2023〜2025年平均 | 順位 | 名称 | 2023〜2025年平均 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 京都市 | 36,081円 | 27 | 鹿児島市 | 22,364円 | |
| 2 | 和歌山市 | 34,171円 | 28 | 高知市 | 21,959円 | |
| 3 | 堺市 | 34,139円 | 29 | 岐阜市 | 21,490円 | |
| 4 | 奈良市 | 32,581円 | 30 | 千葉市 | 20,470円 | |
| 5 | 神戸市 | 32,212円 | 31 | 富山市 | 19,612円 | |
| 6 | 大津市 | 30,336円 | 32 | 金沢市 | 19,598円 | |
| 7 | 大阪市 | 29,588円 | 33 | 鳥取市 | 19,491円 | |
| 8 | 津市 | 29,498円 | 34 | 松江市 | 19,130円 | |
| 9 | 広島市 | 29,372円 | 35 | 川崎市 | 18,376円 | |
| 10 | 山口市 | 28,350円 | 36 | さいたま市 | 16,588円 | |
| 11 | 北九州市 | 27,353円 | 37 | 相模原市 | 16,321円 | |
| 12 | 松山市 | 26,559円 | 38 | 宇都宮市 | 15,878円 | |
| 13 | 福岡市 | 26,215円 | 39 | 那覇市 | 15,292円 | |
| 14 | 大分市 | 26,176円 | 40 | 静岡市 | 15,223円 | |
| 15 | 佐賀市 | 25,990円 | 41 | 甲府市 | 14,882円 | |
| 16 | 熊本市 | 25,642円 | 42 | 青森市 | 14,844円 | |
| 17 | 徳島市 | 24,952円 | 43 | 仙台市 | 12,632円 | |
| 18 | 山形市 | 24,808円 | 44 | 浜松市 | 12,589円 | |
| 19 | 長崎市 | 24,705円 | 45 | 長野市 | 12,328円 | |
| 20 | 名古屋市 | 24,359円 | 46 | 水戸市 | 12,325円 | |
| 21 | 高松市 | 24,171円 | 47 | 秋田市 | 12,275円 | |
| 22 | 東京都区部 | 23,918円 | 48 | 札幌市 | 11,562円 | |
| 23 | 宮崎市 | 23,441円 | 49 | 福島市 | 11,187円 | |
| 24 | 福井市 | 23,176円 | 50 | 前橋市 | 10,886円 | |
| 25 | 横浜市 | 22,824円 | 51 | 盛岡市 | 10,223円 | |
| 26 | 岡山市 | 22,816円 | 52 | 新潟市 | 10,176円 |
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データ出典: 総務省統計局「家計調査」(2007〜2025年・3年平均使用・二人以上の世帯・都道府県庁所在市及び政令指定都市)