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2023-2025年平均(3年平均)

115万頭を育てる鹿児島県。その県庁所在地は、豚肉支出額28位だった。

公開日: 2026-04-25
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115万頭を育てる鹿児島県。その県庁所在地は、豚肉支出額28位だった。

115万頭を育てる鹿児島県。その県庁所在地は、豚肉支出額28位だった。

日本で最も多くの豚を育てている県の県庁所在地が、豚肉をそれほど多く買っていない。

そんな逆説が、家計調査のデータから浮かび上がった。

農林水産省の畜産統計(2023年)によると、鹿児島県の豚飼養頭数は1,153,000頭で全国1位。全国シェアの12.9%を占める。ところが家計調査で、県庁所在市などの豚肉支出額を直近3年(2023〜2025年)の平均で見ると、鹿児島市は33,325円で28位にとどまる(全52都市中)。

1位は新潟市(38,131円)。2位は東京都区部(38,126円)、3位は秋田市(37,909円)。上位5都市はすべて東日本に並ぶ。

生産地と購入地が一致しない。豚肉という身近な食材が、日本の食文化の地域差をくっきりと映し出している。

ランキングを見ると、東西で分断がある

豚肉支出額ランキング 2023-2025年 3年平均

家計調査(県庁所在市と政令指定都市の観測都市ベース)の直近3年平均で、上位5都市を並べると、東日本が席巻していることがわかる。

順位 観測都市 3年平均支出額
1位 新潟市 38,131円
2位 東京都区部 38,126円
3位 秋田市 37,909円
4位 川崎市 37,154円
5位 さいたま市 37,069円

新潟市と東京都区部は38,000円台で横並び。全国平均34,262円に対し、上位5都市はいずれも3,000円以上上回っている。

最下位は福井市で28,122円。1位の新潟市との差は10,009円ある。観測都市の間に、これほどの購入格差が生まれている。

「東は豚・西は牛・南は鶏」という食文化の大まかな区分が、日本にはよく語られてきた。豚肉支出額のランキングも、おおむねその構図に沿っている。東北・関東・甲信越の都市が上位に並び、西日本の都市は相対的に低い。

鶏肉への支出に目を向けると、鹿児島市の位置づけが見えてくる。鹿児島県は全国有数の肉用鶏産地でもあり、食卓の主役が鶏肉に寄っている可能性がある。豚肉をまったく買わないわけではなく、他の肉への支出が相対的に大きいということのようだ。

飼養頭数と消費のギャップが大きい

飼養頭数の上位5県と、県庁所在地などの豚肉購入順位を並べると、ギャップの大きさが際立つ。

飼養順位 都道府県 飼養頭数 対応都市の購入順位 支出額
1位 鹿児島県 115.3万頭 28位(鹿児島市) 33,325円
2位 宮崎県 81.8万頭 46位(宮崎市) 30,445円
3位 北海道 76.0万頭 9位(札幌市) 35,713円
4位 群馬県 59.4万頭 48位(前橋市) 30,074円
5位 千葉県 58.8万頭 10位(千葉市) 35,688円

飼養1位の鹿児島県に対して鹿児島市は28位、2位の宮崎県に対して宮崎市は47位、4位の群馬県に対して前橋市は49位。一方で、北海道の札幌市は10位、千葉県の千葉市は11位と高い。

同じ主要産地でも、札幌市や千葉市は積極的に豚肉を買い、鹿児島市・宮崎市・前橋市は相対的に低い。この差はどこから来るのか。

19年間のトレンドで見えてくること

豚肉支出額の推移 2007-2025年

2007年から2025年の推移を引くと、全国の豚肉支出が底上げされていく様子が読み取れる。

全国平均は3年平均ベースで24,756円(2007〜09年)から34,262円(2023〜25年)へと、38%増えた。物価上昇の影響を含むが、豚肉支出は着実に拡大している。

新潟市は一貫して全国平均を上回り、2019年以降に高水準が続く。2022年には38,272円に達し、2025年も38,568円と高い。近年の新潟市の強さは、食文化の継続に加えて、家庭内調理での豚肉需要の厚さも反映しているのかもしれない。

宮崎市は2020年に33,292円まで上昇し全国平均を上回ったが、その後はやや落ち着き、2025年には30,678円となった。コロナ禍での家庭内消費増の影響が一時的に強く出ていた可能性もある。

なぜ産地の県庁所在地があまり買わないのか

豚肉支出額の19年変化率

数字からは3つの仮説が読み取れる。

理由1 — 食文化の境界線が、産業の立地と一致しない。
豚の生産は、飼料調達や広い土地を確保しやすい地域に集まりやすい。一方で食文化の境界線は、産業の立地とは別の歴史で形づくられてきた。九州南部では、豚肉だけでなく鶏肉の存在感も大きい。

理由2 — 産地で育てた豚肉が、そのまま家庭の支出額になるとは限らない。
産地では、豚肉が加工や業務用、県外向け出荷に回る割合も大きい。家計調査は家庭での支出額を測るため、生産が多くても家庭の支出額が高く出るとは限らない。

理由3 — 鶏肉や牛肉との代替関係がある。
食卓の中でどの肉に予算が向かうかは地域差が大きく、九州南部では鶏肉の存在感が強く、豚肉以外の選択肢が厚い可能性がある。

増加率で見えてくる「後発組の台頭」

19年間の変化率を見ると、豚肉支出は地域によって増え方が大きく異なる。

増加率が最も高かったのは松山市(+64%)、続いて岡山市(+60%)、鳥取市と佐賀市(ともに+52%)、秋田市(+51%)。西日本と東北が混在しているのが特徴的だ。

増加が小さかったのは鹿児島市(+22%)、福井市(+23%)、奈良市(+26%)、水戸市(+26%)、和歌山市(+27%)。全国平均の+38%を大きく下回った。

松山市や岡山市のような都市が大きく伸びている背景には、もともとの購入水準が相対的に低かったところへ、全国的な豚肉購入拡大の波が押し寄せた面もありそうだ。一方、鹿児島市は産地県の中心都市でありながら伸びが小さい。ここにも、地域ごとの食文化の違いがにじむ。

豚肉が語る、日本の食文化の地層

豚肉は日本の食卓で最も身近な肉の一つだ。スーパーでの特売率も高く、価格差も比較的小さい。それでも支出額には大きな地域差がある。

その差を生んでいるのは、産業の立地だけではない。長い時間をかけて積み重なった食文化が、今も家計調査の数字に表れている。

115万頭の豚を育てる鹿児島県。その県庁所在地の鹿児島市は、豚肉の支出額では28位にとどまる。豚肉は「どこで育てられているか」だけではなく、「どこで食卓に並ぶか」で見ると、また違う姿が見えてくる。

全52観測都市ランキング

家計調査では、都道府県庁所在市と政令指定都市の合計52観測都市を比較できる。3年平均ランキングには相模原市を含む全52都市を並べた。

順位 名称 2023〜2025年平均 順位 名称 2023〜2025年平均
1 新潟市 38,131円 27 大津市 33,444円
2 東京都区部 38,126円 28 鹿児島市 33,325円
3 秋田市 37,909円 29 神戸市 33,189円
4 川崎市 37,154円 30 奈良市 32,878円
5 さいたま市 37,069円 31 松江市 32,852円
6 福島市 36,907円 32 宇都宮市 32,825円
7 浜松市 36,606円 33 青森市 32,816円
8 相模原市 36,500円 34 松山市 32,774円
9 横浜市 36,426円 35 福岡市 32,299円
10 札幌市 35,713円 36 佐賀市 32,213円
11 千葉市 35,688円 37 和歌山市 32,135円
12 岡山市 35,627円 38 鳥取市 32,062円
13 山形市 35,625円 39 盛岡市 31,713円
14 静岡市 35,331円 40 大分市 31,449円
15 甲府市 35,178円 41 津市 31,147円
16 仙台市 34,711円 42 岐阜市 31,066円
17 富山市 34,678円 43 北九州市 30,928円
18 堺市 34,562円 44 山口市 30,888円
19 長野市 34,547円 45 高松市 30,761円
20 名古屋市 34,492円 46 水戸市 30,738円
21 京都市 34,415円 47 宮崎市 30,445円
22 広島市 34,381円 48 徳島市 30,267円
23 長崎市 33,709円 49 前橋市 30,074円
24 金沢市 33,622円 50 高知市 29,853円
25 大阪市 33,517円 51 那覇市 29,156円
26 熊本市 33,480円 52 福井市 28,122円

もっと詳しく

データ出典: 総務省統計局「家計調査」(2007〜2025年・3年平均使用・二人以上の世帯・県庁所在市等) / 農林水産省「畜産統計」(2023年)